#3033
k-okuwaki
キーマスター

by ymori » 2023年2月03日(金) 15:43

森です。私からもご回答させていただきます。

結論としては,問題がある場合もあると思います。
Amberのチュートリアルにありますようにやや高めの温度(100 K)で始めて,側鎖構造などに影響がなければそのような温度から始めてもよいと思います。
以下理由等を記載いたします。

大山先生のご回答のようにアニーリングで指定しているのは熱浴の設定温度である一方で
「gen-temp」は初期速度の生成パラメータです(例えば 300 K に対応するMaxwell-Boltzmann分布を生成している)。
したがって「gen-temp=0」かつ「annealing-temp = 0 300 0 300」としたときに起こっていることは
最初に0 Kの温度の速度分布で(つまり速度0で)初期化し,その後熱浴の設定温度を上昇させていっているということになります。
この設定の意図としては,構造最適化を実行した後なので温度としては 0 K に近い状態にあるため,対応する温度からシミュレーションを始めるということにあると思います。

まずAmberのチュートリアルの記載の第一「it will require a lot of heating」はおそらく正しいと思います。
チュートリアルでは 100 K から始めていますので,昇温過程は効率的になると思います。
また拘束もかけているので構造が大きくずれることもないでしょう。

次の不安定についての「it can also make the system unstable.」について
どのような場合を想定しているかは明確ではありませんが,次のようなことが思い当たります(こういう意味で問題がある場合もあります)。

・溶媒のクラスター化
自分でも見たことがあるものとしては,あまりに低温ですと水分子がクラスター化して真空部分が生じてしまうことが挙げられます。
同様の現象として,膜タンパク質を扱っている際の脂質膜も標準的な構造から外れてしまうことがあると思います。
このような構造は必要以上に安定であるため,その後のシミュレーションに影響が及ぶことが考えられます。

・圧力制御時の不安定性
FMO関係のMDプロトコルでは採用されていないので問題はないと思いますが,上記と関連して圧力制御が不安定になることもあります。
構造最適化直後の構造から温度・圧力の同時平衡化を行おうとして 0 K から始めると,
上記のようなクラスターが生じ,それに伴って系内の圧力が低下するので系が必要以上に圧縮されシミュレーションが不安定化します。

これらのことから,確かに問題があることもあるでしょう。
先日の会議で私もそれほど問題がないと思い,そのようなコメントをしましたが,やや高い温度で始めてもよいかと思います。